トム・クルーズは、なにもすべきではない。改めて実感させられた。そもそも、トップガン、カクテル、デイズ・オブ・サンダーなど彼のヒット作は、白い歯さわやか、まぶしそうな眼差しが苦悩に揺れて、でもヒーローはかならず成功すると云ったハリウッド・ストーリーによって作られている。にも関わらず、どうして僕の顔ばかり観に来るのと、異様にベトナムにこだわるオリバー・ストーン当たりと組んでオスカー欲しさに社会派映画に挑戦してからが続かない。以降、共演者に食われ続け、自分の存在が見えなくなってしまった彼は、インタビュー・ウィズ・バンパイアに出演した。いままでにない美しいバンパイアが誕生したが、評価されたのは演技よりその美しさとゴシップだけだった。社会派、法廷物、ちょいホーラー系とまずまずは成功したもののトップスター出演としてはしくじった彼は、アクションに移行した。ミッション・インポッシブルである。作品はまずまずだったが、凄いアクションばかり見せられている我々には、彼のそれはちょっときつかった。言っておくが、彼が単なる顔だけの大根役者だと言ってるのでない。たぐい希な端整な顔立ちを意識し、それを武器にすればいいのに・・・と言っているのだ。スタローンは、自分の立場を理解し、必ず勝つ「アメリカン・ドリーム」の超人間だけを実践してきたのだ。そこを解ってよと、言いたいのだ。 今回の「ザ・エージェント」は、素晴らしい出来だった。いろいろ実験し、一回りして、彼本来のベクトル線上に戻ってきたようだ。 ストーリーは、スポーツ選手のマネージメントを請け負う会社のトップ・エージェントだったジェリー(トム・クルーズ)が、自分の理想を掲げるが、会社に解雇される。どん底で彼は、新しいパートナーと出会い、唯一のクライアントの二流のアメリカン・フットボール選手をサポートする。ことがうまく進まない事に苛立ち、クライアントともパートナーともうまく行かなくなるが、人を思いやる心を忘れていたことに気づき、立ち直り、大逆転のサクセス、ハッピーエンドといういかにもトム・クルーズ的映画である。 高慢知己で人を見下すヤナ女の代表の“前の彼女”と新しいパートナーの“ドロシー”の対比がすばらしい。男ならだれでも、こういう風に認めてもらいたいと思うものだ。子供がいる女性が安定した収入を捨てて、あこがれの男性の為、その人の夢の実現に喜びを感じ、協力してくれるなんて・・・うれしくなります。 また、こんな男しかいないのか?と、思わせるいい加減なプレイヤーのロッド(キューバ・グッデング・Jr)が仕事より家族が大事といい、ジェリーと対局にいるのも面白い。そして、お互いが自分の位置を理解し、少しづつ歩み寄る、まるで需要と供給の法則が、家庭と仕事の法則と名前を変えたような曲線の交わるところまでを縦軸にしてストーリーが構成されている。アメリカ版大岡越前のように次にどうなるかは、我々先刻承知なのにロッドのラストのスピーチに目頭を熱くしてしまうのは甘すぎるでしょうか。 この映画の原題はジェリー・マクガイア。つまり、ジェリー、彼自身という意味である。これが邦題となると、彼の職業になる。トム・クルーズは、ファショナブルで客が入るだろうという既成概念からこのタイトルになったのだろうから、これはこれで正解。しかし、仕事一筋男が、友情と愛情を感じ人間らしさを取り戻して行く、ヒューマン・ドキュメントと友・妻・家族への愛のドラマという点では「ジェリー・マクガイア」の方が正しいと思う。何のことだか解らない原題を解りやすく邦題に変化させるのは構わないが、映画本質を違う意味に取らせる邦題は好ましくない。それでも、やりきれない弁護士で口をキッとして苦虫かみつぶしているより、さわやかなにキラッと笑顔振りまく彼の方が、なんと清々しいことか! これからはスタローンやシュワちゃんのように力ずくでなく、友情と頑張りでサクセスを勝ち取る役で邁進して欲しいものです。なんせ、こんな素晴らしい役しか来ない星の下に生まれたのだから!

4.0